【参考資料】フレデリック・ヘンリー司教(カルガリー名誉司教)のジャスティン・トルドー首相への手紙
【解説】カルガリー司教区の名誉司教であるフレデリック・ヘンリー司教は、カナダの首相に手紙を書いた。ヘンリー司教がこの手紙の中で、指摘していることは、カナダ首相ジャスティン・トルドー自身が受け入れて認めたカナダ政府に責任があったことを無視しているばかりか、政府の責任を教会になすりつけていることである。教会は政府からの経済的な援助がほとんどなかったにもかかわらず、最善を尽くしていた。
カナダ真実和解委員会(the Truth and Reconciliation Commission of Canada)が2015年にカナダ政府に提出した最終報告書(final report)には、第一義的な責任は、連邦政府が負うべきものが明らかにしている。
カトリック・カルガリー教区司教事務局
2021年6月7日
K1A 0A6オンタリオ州オタワ市
下院
カナダ首相
ジャスティン・トルドー閣下(枢密顧問官、文学士、教育学士)
首相閣下
先週、閣下は記者会見で、カトリック教徒として、教会が寄宿学校の悲劇にどのように対応したかについて、「深く失望した」と述べられました。閣下は、カトリック教会が、寄宿学校の運営に果たした役割について正式に謝罪していないこと、また、寄宿学校に関する文書化や情報公開の取り組みに協力するよう求める声に抵抗していることを挙げられました。
カトリック教徒として、またカナダ人として、私は、恐ろしいカムループス寄宿学校の子どもたちの遺骨発見に対して閣下が対応なさった方法について失望しております。
閣下のコメントは無益であるだけでなく、政治的目的のための姿勢とみなさねばならず、さらにまた、2014年にアルバータ州・ノースウエスト準州の司教たちが先住民の兄弟姉妹に対して行った謝罪と遺憾の意という、継続中の偽善に加える、別のあからさまな企てとみなさねばなりません。
2014年、アルバータ州の司教たちは先住民の兄弟姉妹に謝罪しましたが、それには次のような文言が含まれていました。「私たちも、子どもたちを家族から引き離し、カトリックが、寄宿学校でアボリジニの文化や言語をしばしば抑圧する結果となった政府の政策に関与したことについて謝罪と遺憾の意を表します」。
私たち自身の悲しみと、罪の責任を認め、寄宿学校への関与における私たちの罪深さを自認していますが、私たちの声明の文言、特に「政府の政策に関与」(participation in government policies)という言葉に注目することが重要です。第一義的な責任は、連邦政府が負うべきものです。
このことは、「カナダ真実和解委員会最終報告書 第4巻 行方不明の子どもたちと墓標のない埋葬者」でも強調されています。
この報告書の内容に関連した部分を引用して、閣下の記憶を呼び起こさせるのを許してださい。
1.概要
「『誰が死んだのか』『なぜ死んだのか』『彼らはどこに埋葬されているのか』という、行方不明の子どもたちに関する最も基本的な質問について、カナダ政府は、これまで取り組んだことも、包括的に記録したこともない。」(4ページ)
2.統計分析
「これらの割合が、他の場所で報告されているほど高くないかもしれないということは、連邦政府が、寄宿学校とアボリジニ・コミュニティー全般における国家的な健康管理の危機に対処するための適切な行動を取らなかったという事実を軽くするものではない。」(33ページ)
3.運用方針と保護型ケア
「四つの主要な結論がある(中略)第一に、連邦政府は寄宿学校の生徒の健康と安全を保証するための適切な基準と規制を設けなかったことである。この不作為は、政府がその基準を設定する権限を持っていたにもかかわらず起こったものである。第二に、連邦政府は、最低限設定した基準や規制を適切に施行することがなかった。第三に、このような規制を設けず、実施しなかったのは、寄宿学校の費用を最小限に抑えようとする政府の決定が大きく作用していた。第四に、適切な基準の設定・実施をしなかったことと、学校に十分な資金を提供しなかったことが、不必要に高い死亡率という結果をもたらした。
生徒たちは、粗末な建物、粗末な暖房、手入れが粗末で、混雑した、しばしば不衛生な施設に収容された。多くの学校には隔離室も診療所もなかった。多くの学校は、訓練を受けた医療スタッフの世話を受けることができなかった。連邦政府が、生徒の食事が栄養的に足りることを保証する十分な資金を提供しようとしたのは、1950年代後半になってからだった。このように、粗末な住環境、不十分な医療ケア、粗末な食事が重なった結果、生徒たちは感染症にかかりやすくなり、感染症を克服する能力も低下してしまった。インディアン問題省が、住居、食生活、収入、医療受診を改善することによって、より広いアボリジニ・コミュニティーの結核の危機に対処することを怠ってしまい、さらに、寄宿学校への入学前に感染した子どもを選別しなかったため、生徒が感染にさらされることが確実になってしまった。カナダの総人口における結核死亡率は、有効な薬物治療が開発される以前の20世紀初頭に低下したことを、再度強調しておかなければならない。この低下は、一般的に、衛生、住居、食事の改善、感染者の療養所への隔離など、さまざまな要因によるものであるとされる。このような同じ有益な効果が期待できる政策が寄宿学校に勧められましたが、採用されなかった。その結果、薬物治療が導入されるまで、結核は寄宿学校の根強い問題として残り、死亡率も高いままだった。
建物の建設・維持管理で火災安全基準を採用して施行し、さらに、安全で利用しやすい非常階段を建設・維持管理するといったことを怠ったため、生徒の安全はさらに危うくなった。
システム全体の規律方針を定めて実施することを怠ったため、生徒たちは例外的に厳しく、しばしば虐待的な処罰を受けることになった。このことで、ストレスレベルを上げてしまい、病気に対する抵抗力を弱めることになったのだろう。…」(122-123ページ)
4.子どもたちはどこに埋葬されているか。墓地と墓標のない埋葬
「結核は、死因が報告されているケースの48.7%(名前のある名簿と名前のない名簿を合わせたもの)の死因だった。子どもの結核に対する脆弱性と感染からの回復能力は、食事、衛生状態、換気、衣類の質、体力に大きく影響を受ける。政府の資金提供が限られていたため、ほとんどの学校の生徒は栄養失調に陥り、混雑した不衛生な施設に隔離され、衣服も不十分で、過労状態だった。政府が、感染した生徒を学校から排除しておく選別の仕組みを導入・維持することができなかったという事実のため、学校が、アボリジニのコミュニティーに既に存在する結核の危機を増幅させることになった。学校で死亡した生徒が家に帰されることは、親に輸送費を払う余裕がない限り、ほとんどなかった。学校の近くに住んでいない限り、ほとんどの親はそのような費用を負担することはできなかった。その結果として、寄宿学校で亡くなった生徒のほとんどは、近くのミッション墓地か寄宿学校墓地のどちらかに埋葬されたと思われる。これらの墓地の中には、現在も運営されているものもあるが、学校やミッションが閉鎖された後は、多くの墓地が放棄されている。近年、アボリジニのコミュニティー、教会、元生徒たちが、墓地を修復し、そこに埋葬されている人々を記念するための措置を取っている重要な例が数多くある。」(138ページ)
最後に、真実和解委員会の「行方不明の子どもたちと埋葬に関する行動への呼びかけ」の72、73、74、75を再読されることをお勧め申し上げます。私たちは、連邦政府の側に対して、それほど大げさな姿勢ではないものの、もっと率直な行動を取る権利を持っております。
首相のご健勝を祈っております。
敬具
フレデリック・バーナード・ヘンリー
カルガリー名誉司教
ccキャロライン・ベネット閣下(メンタルヘルス・依存症担当大臣兼保健准相)
マーク・ミラー閣下(先住民関係大臣)
【参考】
「カナダ真実和解委員会最終報告書 第4巻 カナダの寄宿学校 行方不明の子どもたちと墓標のない埋葬者」
Calls to Action 71 to 76: Missing Children and Burial Information
72.私たちは連邦政府に対し、カナダ真実和解委員会によって設立された「国立寄宿学校生徒死亡簿」を開発・維持することを可能にするために、国立真実和解センターに十分な資源を割り当てるよう要請します。
73.私たちは連邦政府に対し、教会、アボリジニ・コミュニティー、元寄宿学校生徒と協力し、寄宿学校墓地のオンライン登録を、可能であれば死亡した寄宿学校生徒の位置を示す区画図を含んで確立・維持するよう要請します。
74.私たちは連邦政府に対し、教会やアボリジニ・コミュニティーの指導者と協力して、寄宿学校で亡くなった子どもたちの家族に、その子どもの埋葬場所を知らせ、適切な記念式典や墓識、希望があれば故郷のコミュニティーでの再埋葬を望む家族の願いに応えるよう要請します。
75.私たちは連邦政府に対し、州、準州、自治体、教会、アボリジニ・コミュニティー、元寄宿学校生徒、現在の土地所有者と協力し、寄宿学校の子どもたちが埋葬された墓地あるいは他の跡地を継続的に特定、記録、維持、記念、保護する戦略と手順を開発・実施するよう要請します。これには、亡くなった子どもたちをたたえる適切な記念式典や記念標示を提供することが含まれます。