アヴェ・マリア・インマクラータ!
愛する兄弟姉妹の皆様、
「判事の書」は、サムソンの死で幕を閉じます。しかし、最大の判事であるサムエルが、この世に現れなければなりません。
しかしサムエルの話は、イスラエルにおける王の出現と深い関わりがあります。何故ならサムエルがイスラエルに君主制を導入させるからです。初代王サウル(前1095年)から始まって、ナブコドノゾルによるエルサレム陥落(前588年)のセデキア王までは、四巻の「列王記」と呼ばれる本に書かれています。その内の最初の二巻は、サムエルの書(上下)、最後の二巻は「列王の書」(上下)とも言われます。
サムエルの書(上)を、ラテン語のブルガタ訳、光明社の訳、バルバロ神父訳の対訳でご紹介いたします。
天主様の祝福が豊かにありますように!
トマス小野田圭志神父(聖ピオ十世会司祭)
Vultata
光明社
バルバロ訳
Samuelis I Capitulum 1
サムエル書上 第1章
サムエルの書 上 第1章
1 fuit vir unus de Ramathaimsophim de monte Ephraim et nomen eius Helcana filius Hieroam filii Heliu filii Thau filii Suph Ephratheus
エフライムの山地なるラマタイムソフイムに、その名をエルカナと云う人ありけり、エフライム人なるスフの子トフ、その子エリウ、その子イエロハムの子なり。
ラマタイムに一人の男がいた。この男はエフライムのズフ人で、エフラタのズフの子、トフの子、エリウの子、エロハムの子でエルカナといった。
2 et habuit duas uxores nomen uni Anna et nomen secundae Fenenna fueruntque Fenennae filii Annae autem non erant liberi
彼に二人の妻あり、その一人の名はアンナ、他の一人の名はフェネンナと云えり。フェネンナには子等ありしが、アンナには子等あらざりき。
彼には妻が二人あった。一人はアンナ、一人はペニンナといった。ペニンナには子があったけれどもアンナにはなかった。
3 et ascendebat vir ille de civitate sua statutis diebus ut adoraret et sacrificaret Domino exercituum in Silo erant autem ibi duo filii Heli Ofni et Finees sacerdotes Domini
さてこの人はシロに於いて萬軍の主を禮拜し、之に禮物を献げんとて定めの日にその市より上りぬ。ヘリの二子、オフニとフィネエス、其處に主の司祭たり。
彼は毎年万軍の主を礼拝して、いけにえをささげるために自分の町からシロに上った。シロにはエリの二人の子オフニとピンハスが主の祭司としてつとめていた。
4 venit ergo dies et immolavit Helcana deditque Fenennae uxori suae et cunctis filiis eius et filiabus partes
その日また来りしかば、エルカナ犠牲を献げて、その妻フェネンナとそのすべての息子娘に分前を與えけるが、
ある日、エルカナはいけにえをささげた。その日妻のペニンナとその息子と娘にいけにえの分け前を与えることにしていたけれども、
5 Annae autem dedit partem unam tristis quia Annam diligebat Dominus autem concluserat vulvam eius
アンナには悲しみつつただ一部を與えぬ、そは彼アンナを愛したればなり。されど主はその胎を閉ざし給えり。
アンナには分け前を一つしか与えなかった。主はアンナの胎を閉じられたにしても、エルカナはアンナのほうを、もう一方の女より愛していた。
6 adfligebat quoque eam aemula eius et vehementer angebat in tantum ut exprobraret quod conclusisset Dominus vulvam eius
その敵手も亦之を苦しめ、主がその胎を閉ざし給いしを責めて、いたく悩ましたり。
それに競争者のペニンナはアンナの恥、つまり主が彼女の胎を閉じて子を与えられないことについて、ひどく辱めていた。
7 sicque faciebat per singulos annos cum redeunte tempore ascenderent templum Domini et sic provocabat eam porro illa flebat et non capiebat cibum
彼女は年毎に、彼らが主の聖殿に上る時の廻り来る度に然し、かくの如くにして之を怒らしめぬ。さればアンナは泣きて食物を摂らざりき。
毎年きまってそういうことがあり、彼らが、主の聖所に上るごとにペニンナはアンナを悲しませていた。いまもアンナは泣き出して何一つ口にしようとしなかった。
8 dixit ergo ei Helcana vir suus Anna cur fles et quare non comedis et quam ob rem adfligitur cor tuum numquid non ego melior sum tibi quam decem filii
時にその夫エルカナ之に云いけるは、「アンナよ、汝は何故泣くや、何故食せざるや、また何故汝の心を悩ますや。我は汝にとりて、十人の子にも優るに非ずや。」と。
そこで夫のエルカナは言った、「アンナ、なぜ泣くのだ。なぜそう悲しむのだ。おまえにとって十人の子よりも私のほうが良いではないか」。
9 surrexit autem Anna postquam comederat in Silo et biberat et Heli sacerdote sedente super sellam ante postes templi Domini
茲に於いてアンナも、シ口にて飲食せし後起ち上りしが、折しも司祭ヘリ、主の聖殿の門前なる腰掛に坐しおれり。
アンナはシロでの宴会のあと立ち上がり主の前に出た。そのとき祭司エリは主の聖所の扉の柱に近い腰かけに腰を下ろしていた。
10 cum esset amaro animo oravit Dominum flens largiter
アンナは心悲しきあまり、主に祈りて、いたく泣き、
アンナは心を痛め、泣きに泣いて主に祈った。
11 et votum vovit dicens Domine exercituum si respiciens videris adflictionem famulae tuae et recordatus mei fueris nec oblitus ancillae tuae dederisque servae tuae sexum virilem dabo eum Domino omnes dies vitae eius et novacula non ascendet super caput eius
願を立てて云いけるは、「萬軍の主よ、汝もし汝の婢の悩みをみそなわして、我を憶い、汝の婢を忘れず、汝の召使に男子を與え給わば、我は之を生くる日の限り主に献げて、その頭に剃刀を觸れざるべし。」と。
そしてこう誓いを立てた、「ああ万軍の主なる天主よ、あなたのはしためのこの惨めさを顧み、私のことを思い出したまえ。このはしためを忘れず、男の子を与えられるなら私は一生その子を主にささげ、その子の頭にかみそりをあてることもしますまい」。
12 factum est ergo cum illa multiplicaret preces coram Domino ut Heli observaret os eius
然るに彼女が主の御前にて多く祈りたる時、偶々ヘリその口に目を注ぎぬ。
アンナの主の前での祈りが長かったので、エリは彼女のくちびるに目をやった。
13 porro Anna loquebatur in corde suo tantumque labia illius movebantur et vox penitus non audiebatur aestimavit igitur eam Heli temulentam
さてアンナは心の中にて語りたれば、ただその口唇動くのみにして、聲は全く聞えざりき。さればヘリは彼女を酔えりと思いて、
アンナは心の中で語っていてくちびるだけ動かし、声は外に出ていなかった。エリはこの女は酔っているなと思った。
14 dixitque ei usquequo ebria eris digere paulisper vinum quo mades
之に云いけるは、「汝何時まで酔えるぞ。汝の飲み過ぎたる葡萄酒の酔を醒ませ。」と。
エリはアンナに言った、「酔っていつまでそこにいるのか。ぶどう酒の酔いを早くさませ」。
15 respondens Anna nequaquam inquit domine mi nam mulier infelix nimis ego sum vinumque et omne quod inebriare potest non bibi sed effudi animam meam in conspectu Domini
アンナ答えて云いけるは、「わが主よ、然らず、蓋し我は極めて不幸なる女にして、葡萄酒をも、強き酒をも、飲みたるにあらず、主の御眼前にわが心を披瀝したるなり。
アンナは答えた、「いえ、ご主人さま、私は悲しみに打ちひしがれています。ぶどう酒も酔う物も飲んではいません。ただ主の前で私の思いを告げていたにすぎません。
16 ne reputes ancillam tuam quasi unam de filiabus Belial quia ex multitudine doloris et maeroris mei locuta sum usque in praesens
汝の婢をベリアルの娘等の一人と思うなかれ。そは我わが悲嘆の夥多なるあまり、今まで語りたればなり。」と。
このはしためを自堕落な女だと思ってくださいますな。私は苦しみと悲しみのあまり主に語りかけていたのです」。
17 tunc Heli ait ei vade in pace et Deus Israhel det tibi petitionem quam rogasti eum
その時ヘリ之に云いけるは、「安んじて行け。希わくはイスラエルの天主、汝が彼に求めし願いを、汝に容し給わんことを。」と。
エリは答えた、「安心して行け。イスラエルの天主はおまえの願いを聞きたもうだろう」。
18 et illa dixit utinam inveniat ancilla tua gratiam in oculis tuis et abiit mulier in viam suam et comedit vultusque eius non sunt amplius in diversa mutati
彼女乃ち云いけるは、願わくは汝の婢、汝の御眼前に恩恵を得んことを。」と。かくてこの女、その途を行きて食し、その顔色最早さまざまに変わることなかりき。
アンナは答えた、「このはしために今後も好意をお示しください」。それからアンナはもとにもどり食事をとった。もう前のようではなかった。
19 et surrexerunt mane et adoraverunt coram Domino reversique sunt et venerunt in domum suam Ramatha cognovit autem Helcana Annam uxorem suam et recordatus est eius Dominus
さて彼等朝に起き、御前に禮拜し、帰りてラマタなるその家に至れり。しかしてエルカナその妻アンナを知りしに、主之を憶え給えり。
日の昇るころ一同は起き出し、主の前にひれ伏してラマの家への帰途についた。その後エルカナが妻を知ったとき、主は彼女を思い出された。
20 et factum est post circulum dierum concepit Anna et peperit filium vocavitque nomen eius Samuhel eo quod a Domino postulasset eum
郎ち日を経てアンナ懐胎し、一子を産むに至りしかば、彼女その名をサムエルと名づけたり、是、主に求めたるによりてなり。
その年の終わりころ彼女は身ごもって男の子を生んだ。その子はサムエルと名づけられた。そう名づけたのは「主に願った子だから」と彼女が言ったからである。
21 ascendit autem vir Helcana et omnis domus eius ut immolaret Domino hostiam sollemnem et votum suum
茲に於いてその夫エルカナ、及びその家族一同、主に祭の犠牲と誓いたる物とを献げんとて、上り行きしが、
夫のエルカナは毎年のいけにえを主にささげて誓いを果たすために家族一同を連れていこうとしたけれども、
22 et Anna non ascendit dixit enim viro suo non vadam donec ablactetur infans et ducam eum et appareat ante conspectum Domini et maneat ibi iugiter
アンナは上り行かず、その夫に云いけるは、「我この子の乳離れするまで行かじ、然る後之を携え行きて主の御眼前に現れしめ毎も其處に留まらしむべし。」と。
アンナはついていそうとせず、夫にこう言った、「この子が乳離れして主の顔をおがみに連れていけるようになり、ずっと向こうにとどめておけるようになるまで、私は参りません。」
23 et ait ei Helcana vir suus fac quod bonum tibi videtur et mane donec ablactes eum precorque ut impleat Dominus verbum suum mansit ergo mulier et lactavit filium suum donec amoveret eum a lacte
その夫エルカナ乃ち之に云いけるは、「汝に善しと見ゆる所を為し、之を乳離すまで留まれかし。ただ我は主が曰いし所を果たし給わんことを願う。」と。よりて女は留まりてその子乳を與え、之を乳より離す期を待ちぬ。」
夫のエルカナは答えた、「おまえの思うようにしてよい。子を育て上げるまでいかなくてよい。主はおまえの望みをかなえてくださるだろう。」そして女は家に残り、乳離れするまでその子を育てた。
24 et adduxit eum secum postquam ablactaverat in vitulis tribus et tribus modiis farinae et amphora vini et adduxit eum ad domum Domini in Silo puer autem erat adhuc infantulus
かくて之を乳離したる後、彼女は子牛三頭、粉三桝、葡萄酒一壺と共に、之をシロなる主の家に携え行けり。時にその子なおいと幼かりき。
乳離れしたときアンナは子を連れ、三歳の雄牛一頭、一エファの麦粉、皮袋一つのぶどう酒を持ち、子の手をひいてシロの主の神殿に上った。
25 et immolaverunt vitulum et obtulerunt puerum Heli
しかして彼等子牛を屠りてその子をヘリに付したるが、
雄牛をほふってから彼女は子どもをエリに紹介した。
26 et ait obsecro mi domine vivit anima tua domine ego sum illa mulier quae steti coram te hic orans Dominum
アンナ云いけるは、「乞う、わが主よ、汝の魂は活く、主よ、我はかつて此處に於いて汝の前に立ち、主に祈りたりしかの女なり。
アンナはエリに言った、「ご主人さま、お聞きください。あなたのお命が真実であるように、私もそれにかけて事実を申します。私はちょうどここ、あなたのそばで長くとどまって主に祈った女です。
27 pro puero isto oravi et dedit Dominus mihi petitionem meam quam postulavi eum
我はこの子の為に祈りしを、主はわが求めし願いを我に容し給えり。
私はこの子について祈りました、主は私の願いを聞き届けてくださいました。
28 idcirco et ego commodavi eum Domino cunctis diebus quibus fuerit accommodatus Domino et adoraverunt ibi Dominum et oravit Anna et ait
されば我も亦之を主に献げたり、その生きる日の限り彼を主に献ぐべし。」と。彼等乃ち其處に於いて主を礼拝したり。時にアンナ祈りて云いけるは、
それで私もこの子の一生を主にゆだねます。この子を主にささげます」。そして彼女はその子を主の前に残して去った。