童貞聖マリアの連祷の「天使の元后」についての説教
ドモルネ神父 2023年10月8日
はじめに
10月は、ロザリオの聖母と聖なる天使に奉献された月です。聖母と聖なる天使をたたえるために、今日は、連祷の中で聖母に捧げられている「天使の元后」という称号についてお話ししたいと思います。
1.天使
天使は、天主によって創造され、知性と意志を授けられていますが、私たちのような肉体は持っていません。天使は純粋な霊です。私たちの目は物理的な物体しか見えないようにできているため、天使を見ることはできません。では、私たちは、どのようにして天使が存在することを知るのでしょうか。第一に、論理的な推論によってです。宇宙にある物の中には、段階的な完全性があることが、私たちには分かります。石のような無生物の物質的な物があり、その上に、植物のような生きている物質的な存在があり、その上に、動物のような感覚のある物質的な存在があり、その上に、人間のような理性を持った物質的な存在があります。論理から言えば、これらの上に、私たちが天使と呼ぶ、物質的ではない、理性を持った存在がいることになります。第二に、私たちは、啓示によって、天使が存在することを知っています。預言者たちや私たちの主イエズス・キリストは、天使についてしばしば語っています。そして最後に、私たちは、天使が人間の人生に、何度も目に見える形で介入してきたことから、天使の存在を知るのです。
天使は本性によって、私たちよりもはるかに力ある存在です。天使の知性、意志の力、強さは、私たちのものをはるかに上回っています。そのため、本性によって、天使の中で最も弱い者でも、人間のうちで最も偉大な天才よりも偉大です。本性によって、天使は、童貞聖マリアよりも、偉大で力ある存在なのです。
2.厳密な意味における天使の元后なる聖母
しかし、聖母は、最も厳密な意味における元后です。このことが意味するのは、聖母は、その力と温和な権威をもって、すべての天使を支配しておられる、ということです。すべての天使は、最も偉大な天使でさえも、喜んで聖母のしもべとなっているのです。聖母は、そのような権威と力をどこから得ておられるのでしょうか。
第一に、それは、人となられた天主であるイエズス・キリストの御母であることから来るのです。私たちの主イエズス・キリストは、天主であるがゆえに、受胎の最初の瞬間から、本性によって宇宙の王なのです。聖母は、母としての絆によって、他のどの存在よりもイエズス・キリストと一致しておられます。それゆえ、聖母は、イエズス・キリストの王権を他の誰よりも分け与えられています。キリストによって、聖母は宇宙の元后、すべての天使の元后となられたのです。
第二に、聖母は、贖いのみわざに協力されたことにより、天使に対する力と権威を受けられました。イエズス・キリストは、ご受難によって、天使を含む宇宙に対する主権を獲得されました。聖パウロは、フィリッピ人への書簡の中で、こう見事に言っています。「イエズス・キリストは、死ぬまで、十字架上に死ぬまで、自分を卑しくして従われた。そこで天主はキリストを称揚し、すべての名にまさる名を与えられた。それはイエズスの御名の前に、天にある者も、地にある者も、地の下にある者も、みなひざをかがめ、すべての舌が、父なる天主の光栄を崇め、『イエズス・キリストは主である』と宣言するためである」(フィリッピ2章8-11節)。私たちの主イエズス・キリストは、他のどの存在よりも、童貞聖マリアをご自身の贖いのみわざの協力者とされました。その結果、主は、この贖いのみわざに由来する王権でも、聖母を協力者とされたのです。こうして、私たちの主への依存の下で、聖母は宇宙の元后、すべての天使の元后となられたのです。
3.広い意味での天使の元后なる聖母
童貞聖マリアは「天使の元后」と呼ばれますが、それは、聖母が、行いにおいて、すべての天使を凌駕しているからでもあります。聖パウロの教えによれば、天使には九つの階級があります。それは、天使、大天使、権天使、能天使、力天使、主天使、座天使、智天使、熾天使です。すべての天使が天主に仕えていますが、天主は天使の各階級に、特別な使命を委ねておられます。
熾天使は、天主への強い愛で際立っています。しかし、聖母は、その愛において熾天使を上回っておられます。なぜなら、熾天使はしもべが最高の主人を愛するように天主を愛しますが、聖母は天主の御母として天主を愛されるからです。
智天使は、神性についての深い知識で際立っています。しかし、童貞聖マリアは、智天使以上に、聖三位一体、ご托身、贖いの各神秘のうちに導かれました。
座天使は、天主のことをよく知り、天主の神聖な命令の理由を知っていることで際立っています。しかし、聖母は、その天主の母性を通して、座天使よりもはるかに天主と親密に生きておられます。
主天使は、天主の命令を執行するために、下位の天使に対して持つ権威で際立っています。しかし、童貞聖マリアは、主天使以上の権威を持っておられます。聖母は、人となられた天主であるイエズス・キリストに対する親としての権威を持っておられるのです。
力天使は、地上で奇跡を行う力で際立っています。しかし、聖母は、力天使よりもはるかに多くの奇跡をなさっています。なぜなら、聖母が世界中でなさった奇跡の数は数え切れないほどだからです。
能天使は、悪魔を抑える力で際立っています。しかし、聖母は、それよりはるかに多くのことをなさいます。聖母は、悪魔の指導者であるルチフェルの頭を踏み砕かれるのです。
権天使、大天使、天使は、国、場所、個人に特別な保護を与えることで際立っています。しかし、聖母は、その天使すべてよりも、はるかに多くのことをなさいます。聖母は、宇宙の元后であり、すべての人の母です。聖母は、すべての天使以上に、すべての場所とすべての人に配慮しておられるのです。
4.童貞聖マリアが元后であることの現れ
確かに、聖母がすべての天使に対する元后であることが最も美しく現れたのは、受胎告知の瞬間です。最高の尊厳を持つ天使の中の一位である天使ガブリエルは、最も謙虚で敬意を持った方法で、マリアにこう挨拶しました。「めでたし、聖寵充ち満てるマリア」。
聖ゲルトルートは、自分が聖母と天使についての幻視を見たと報告しています。彼女が見たものはこうです。「天主の御母からのしるしで、大勢の天使が四方から現れて、この栄光ある童貞に祈り求めるすべての人々を守っています」。
ローマのバチカンの近くに、サンタンジェロ城と呼ばれる有名な城があります。そう呼ばれる理由はこうです。大教皇聖グレゴリオの時代に、恐ろしい伝染病でローマの町の多くの人が亡くなっていました。教皇は、町の中を歩く行列を組織し、その際、教皇自身が童貞聖マリアの御像を担ぎました。行列の終わりに、群衆は城の上空に天使が現れ、剣を鞘に収めるのを見ました。すると、町はたちまち伝染病から解放されました。天の元后の御像を見て、また彼女の命令で、ローマの町を罰していた天使はそうするのをやめたのです。そのとき以来、この城は、「サンタンジェロ城」と呼ばれるようになりました。
1864年1月13日、ルイ=エドゥアール・セスタック神父は幻視を見ました。悪魔が地上に広がって、言いようのない大混乱を引き起こしているのを見たのです。同時に、彼は聖母の幻視を見ました。聖母は、悪魔がこの世に解き放たれていること、そして「天使の元后」としての聖母に祈り、地獄の勢力と戦って踏み砕くために、天の軍団を送ってくださるように願う時が来たことを告げられました。司祭はこう尋ねました。「いと優しき御母よ、私たちがお願いしなくても、天の軍団を送ってくださらないでしょうか」。聖母はこう答えられました。「いいえ。祈りは、恩寵を得るための、天主ご自身が定められた条件です」。司祭はこう言いました。「では、御母、祈り方を教えていただけませんか」。すると司祭は、聖母から「荘厳なる天の元后」という祈りを受けました。この祈りで、この説教を終えることにしたいと思います。
結論
荘厳なる天の元后、主権を持つ天使の支配者、蛇の頭を踏み砕く使命と力を初めに受け給うた御者よ、願わくは、御身の聖なる天使を遣わし給い、御身のご命令とお力のもとで、天使が悪霊を追い詰め、あらゆる場で悪霊と戦い、悪霊の大胆な攻撃に耐えて、悪霊をここより呪いの深淵へと追いやらんことを。
誰か天守の如くあらん? いつくしみ深く、優しき御母よ! 御身は永遠にわれらの愛、希望なり。
至聖なる御母よ、われらを守り、われらから残酷な敵を追い払わんがために、御身の天使を遣わし給え。
すべての聖なる天使と大天使よ、われらを助け、守り給え。アーメン。